バーのママの話
あの頃の夫は、妙によく喋る時があった。
もともと多くを語るタイプじゃないのに、やけに饒舌に話すことがあった。
「バーのママ」の話。
ママは元々営業のやり手だったんだ。
バーのママになって大成功したんだ。
頼んでもいないのに、細かく話してくる。
正直、その時の私は
「よくある常連と店主の距離感なんだろうな」くらいにしか思っていなかった。
でも、ある日の出来事で、少しだけ引っかかった。
「バーのママが娘さんとUSJに行ったんだって。
娘ちゃんへ、ってお土産もらったわ」
そう言って渡されたのは、紙袋いっぱいのお土産。
――多すぎる。
どう考えても、一人のお客の子どもに渡す量じゃない。
しかも中身も、どれもきちんと選ばれたものばかりだった。
「お金持ちなんだね」
そう返したけれど、心の中では違うことを考えていた。
金持ち、だけで説明がつく量じゃない。
この時はまだ、確信はなかった。
ただ、違和感として残った。
でも今ならわかる。
あのときの会話も、あのお土産も、
全部ちゃんと“意味”があった。
バラバラだった点が、あとになって一本の線になる。
気づいたときには、もう戻れない場所まで来ている。
そんな日が、本当に来るなんて思っていなかった。


