地獄の始まり⑤点と点が線になる日(1)

2_地獄の3か月

バーのママの話

あの頃の夫は、妙によく喋る時があった。

もともと多くを語るタイプじゃないのに、やけに饒舌に話すことがあった。

「バーのママ」の話。

ママは元々営業のやり手だったんだ。
バーのママになって大成功したんだ。

頼んでもいないのに、細かく話してくる。

正直、その時の私は
「よくある常連と店主の距離感なんだろうな」くらいにしか思っていなかった。

でも、ある日の出来事で、少しだけ引っかかった。

「バーのママが娘さんとUSJに行ったんだって。
娘ちゃんへ、ってお土産もらったわ」

そう言って渡されたのは、紙袋いっぱいのお土産。

――多すぎる。

どう考えても、一人のお客の子どもに渡す量じゃない。
しかも中身も、どれもきちんと選ばれたものばかりだった。

「お金持ちなんだね」

そう返したけれど、心の中では違うことを考えていた。

金持ち、だけで説明がつく量じゃない。

この時はまだ、確信はなかった。
ただ、違和感として残った。

でも今ならわかる。

あのときの会話も、あのお土産も、
全部ちゃんと“意味”があった。

バラバラだった点が、あとになって一本の線になる。

気づいたときには、もう戻れない場所まで来ている。

そんな日が、本当に来るなんて思っていなかった。