どれだけ証拠が出てきても、私は満足できなかった。
どれもこれも、状況証拠にすぎない。
決定的なものがない。
相手の住所も、勤務先もわからない。
顔すら知らない。
——どんな顔をしているのか。
バーのママだという。
きっと、相当きれいなんだろう。
そんなことばかり考えていた。
私は毎日、隙を見ては証拠探しを続けた。
本当はスマホが見たい。
あの中に、すべてがあるはずだから。
でも夫は、片時もスマホを手放さない。
一度だけ、風呂に入っている隙にロック解除を試みた。
当然、失敗した。
——心臓に悪すぎた。
その点、リュックは違う。
探し放題だ。
以前見つけた証拠も、そのまま入っている。
(どうして捨てないのか、本気で理解できない)
私はリュックの中から、夫のノートを見つけた。
1ページずつ、目を通していく。
仕事のメモ。
難しい計算式。
——いかにも夫らしい。
そして、最後のページ。
あった。
やっぱり、あった。
女の携帯番号。
メールアドレス。
マンションの住所。
もう一つの住所。
LINE ID。
全部、そろっていた。
マンションの住所と、もう一つの住所。
それはカーナビの履歴と、完全に一致した。
その瞬間、心の中でガッツポーズをした。
誰かに言いたかった。
誰かに褒めてほしかった。
23年間、夫と暮らしてきた。
自分勝手な行動に振り回されながらもずっと夫を観察してきた。
夫の行動パターン。
それを全部つなげて、
このメモにたどり着けるのは——
間違いなく、私だけだ。
これで、女を訴えることができる。
住所も名前も、電話番号も、LINE IDもある。
一瞬、LINEを送ろうかと思った。
でも、やめた。
ここで動いたら終わる。
これらの証拠は、夫に知られてはいけない。
もし今、突きつけたら——
「どうやって見つけた?」
そうやって、論点をすり替えてくるに決まっている。
人のカバンを勝手にあさったのか。
そうやって、私を責めるだろう。
だから私は決めた。
この証拠は、最後の最後まで出さない。
その時が来るまで、
すべて、握り続ける。

