仕事に追い込まれていた夫
結婚して23年が経った頃、夫は50歳をとうに過ぎていました。
会社では出世もしていて、責任ある立場にいました。
夫の部署は、会社が命運をかけて取り組んでいる新しいプロジェクトの中心。
その中でも責任あるポジションでした。
そのプロジェクトの拠点は地方にあり、
月曜日から金曜日まで出張という生活も珍しくありませんでした。
もともと夫は仕事ができる人でした。
物事をはっきり言うし、頭の回転も早い。
努力家で資格もたくさん取っていました。
会社からの信頼も厚く、私はそんな夫をとても尊敬していました。
でも、その頃の夫は明らかに疲れていました。
仕事は激務。
出張も多く、顔色はどす黒く、睡眠もあまり取れていないようでした。
ストレスでお酒も増え、中年太りもしていました。
いわゆる完全なメタボ体型でした。
少しずつ変わっていった夫
そんな夫が、ある頃からジムに通い始めました。
サウナにも頻繁に通うようになり、
半年ほどで12キロも痩せました。
しかも、かなり筋肉がついていたようです。
私は普段あまり気にしていませんでしたが、
息子が私に筋肉自慢をしているのを見て、夫が
「パパも筋肉ついてきたぞ」
と言って服を脱いだ時、驚くほど体がムキムキになっていてびっくりしました。
その姿を見て、正直なところ
「気持ち悪い」と思ってしまいました。
そして、私は痩せたことすら言われるまで気づかなかったのです。
お互いに関心がない、という状況になっていました。
それだけではありません。
今までの夫とは、少しずつ行動が変わっていきました。
消えなかった違和感
夫はこれまで、人から何かをしてもらっても、
あまりお礼をするタイプではありませんでした。
私の両親が孫にお金をくれたり、
旅行に連れて行ってくれたりしても、
家長としてお礼を言う、ということができない人でした。
ところが、ある頃から突然こう言うようになりました。
「お世話になっている社長がいるから、手土産を買いに行ってくる」
私が取り寄せた果物を見て
「これ、お世話になっている社長に渡したいから少し持っていっていい?」
と言い出すこともありました。
私は違和感を感じながらも果物を渡しました。
服装にも急に気を使うようになりました。
それまで夫は、会社できるスーツはブランド物を選んで購入していましたが
普段着については、ユニクロの服を何十年も着続けるような人でした。
破れていても気にしない。私が見かねて買い替えることもありました。
それなのに、急に普段着もブランド服を買うようになりました。
メガネも、ずっとJINSのものを使っていたのに、
ある日、高島屋で8万円以上するメガネを買ってきました。
今までイオンすら行かず、高島屋なんて行く理由がなかった夫が
頻繁に高島屋に行くようになりました。
「高島屋に浴衣を買いに行ってきた」
「高島屋のバック売り場で、見つけちゃった」
と言って飼い犬に似た柄の革小物を買ってきたこともありました。
これは娘にプレゼントしていました。
寝るときも変わりました。
同じベッドで寝ていましたが、
私に背中を向けて寝るようになったのです。
消えない疑い
そんな小さな変化が重なっていきました。
私はうすうす思っていました。
もしかして、女がいるのではないか。
でも、決定的な証拠はありませんでした。
探してもいませんでした。
正直に言うと、その頃の私は、
夫に対して強い愛情が残っていたわけでもありませんでした。
家庭を壊さないのであれば、
女がいても仕方ないのかもしれない。
子どもには愛情があるのはわかるし、家族を捨てることはないだろう。
そんなふうに思っていたところもありました。
だから、深く考えないようにしていました。
その日、夫は出張のはずだった
その日も、夫は「東京出張」だからゆっくり出かけると言っていました。
「お世話になっている社長に渡したいから」
と言って、朝から老舗の和菓子屋に並んでまで、手土産を買いに行きました。
ただ、その和菓子は日持ちが1日しかありません。完全な生ものです。
個包装でもありません。
私は
「手土産にするには向いていないのでは?」
と尋ねました。
でも夫は
「これでいいんだ」
と言って買いに行きました。
私はそのまま出勤しました。
リビングに落ちていた映画の半券
夕方、仕事を終えて家に帰りました。
リビングに入ったとき、
床に小さな紙が落ちているのが目に入りました。
映画の半券でした。
「ディア・ファミリー」
しかも、
2枚買ったうちの1枚でした。
次 回
映画の半券は、
ただの紙切れではありませんでした。
その一枚をきっかけに、
私の結婚生活は大きく動き始めます。
これまで感じていた違和感は、
少しずつ「確信」に変わっていきました。
そして、そこから始まったのは
想像もしていなかった出来事の連続でした。
平穏だったはずの結婚生活が崩れていく、
地獄の3か月。
次回
「映画の半券から始まった地獄の3か月」


