その日も、いつも通りだった。
夫のリュックに、GPSを仕掛ける。
1週間、見つからずにやってきた。
きっと今日もうまくいく。そう思っていた。
GPSは動きがあるたび、アプリに通知が来る。
通知が来るたびに位置を確認してしまう。
その日はなんとなく、動きに違和感があった。
夫が帰ってきた。
「ただいま」も「おかえり」もない、いつも通りの帰宅。
その夜、夫は家で食事をしたのだろうか。
今となっては、記憶もない。
わたしは家事をこなしながら、夫が風呂に入るのを待っていた。
風呂に入っているすきに、GPSをリュックから取り出す。
充電をして、翌朝また戻す。
それを1週間、繰り返してきた。
リュックから取り出したとき、決定的な違和感があった。
GPSは小さな四角いケースに入っていた。
中で開いてしまわないよう、テープでつなぎ目を1周ぐるりと留めていた。
そのテープの位置が、ずれている。
あれ? わたし、こんな留め方したかな?
心臓がバクバクと音を立てた。
まさか、バレた?
でも何も言ってこない。
さすがに何も言ってこないことはないだろう。
GPSをズボンのポケットにしまい、祈るような気持ちで、食器を洗い始めた。
夫が風呂から出て2階に上がって行った。
毎度のことだが、夫は自分のことが済めばすぐに寝る。
家事を手伝うことも、リビングで家族と話すことも、ない。
いつも通りの夜、のはずだった―。
血相を変えた夫が、キッチンに飛び込んできた。
引き出しという引き出しを、片っ端から開けていく。
「どこに隠した??」
「出せよ!」
「はあ? 何を??」
「とぼけるなよ!GPSだ!」
「そんなの知らない」
「ふざけるな!出せ!!」
夫の目は吊り上がり、怒りに震えていた。
23年の結婚生活で、こんな顔は見たことがなかった。
感情をむき出しにして詰め寄ってくるのも、初めてだった。
夫は家じゅうの引き出しを開け、2階の寝室へ向かった。
わたしの化粧台の引き出しも、ヒステリックに全部開けていく。
「ありませんよ」
わたしは努めて冷静に言った。
「早く出せ!!俺はGPSを仕掛けるようなやつとは一緒にいられん」
「原因を作ったのは自分でしょう」
「女がいるのに認めないから、証拠を掴むしかないでしょう」
「女なんかいるわけない!GPSを仕掛けるような奴と同じ家に住めない!怖すぎる!」
「それはあなたがやましいから怖いんだよ。私はGPS仕掛けられたって全く問題ないよ」
「俺はもうお前とは無理だ。出ていく」
夫はその日のうちに荷物をまとめ、家を出て行った。
あっけないと思った。
なぜか1時間後、戻ってきた。
「親に話して、荷物を実家に置いてきたから。明日出ていく」
「実家?それは、どうぞ」
嘘だ、とすぐにわかった。
こんなときに頼れる親ではない。夫が泊まれるような家でもない。
夫が行く先は——確実に、女のところだ。
明日は2人とも仕事がある。
家を出ていくのは、仕事が終わってからだろう。
わたしはポケットの中のGPSに、そっと手を当てた。
今度は、車に仕掛けるしかない。
次回:「車に仕掛けたGPS」

