証拠集めを始めて、1週間が経とうとしていた。
驚いたのは、そのあっけなさだった。
探すまでもなく、次々と見つかる。
女の情報が書かれたノートは、リュックの中にそのまま入っていた。
クルーズ旅行のパンフレットは、リビングのテーブルに置いてある。
クローゼットを開ければ、精力剤が堂々と鎮座していた。
ほんの数週間前、わたしが「ディア・ファミリーは面白かったですか」とLINEで問い詰めたとき、夫は頑として不倫を認めなかった。
「家族を捨てるつもりはありません」
それが夫の答えだった。
不倫を否定するなら、証拠は隠すはずだ。
それが普通の感覚だと思う。
なのに、なぜこんなにも無防備なのか。
チャネリングの先生へ相談した内容のメモまで見つかったとき、わたしは思わず笑ってしまった。
笑うしかなかった、と言ったほうが正確かもしれない。
夫の頭の中は、いったいどうなっているのだろう。
まるで「お花畑」だ。
今すぐ問い詰めたい。
そう思う気持ちはあった。
証拠はもう十分すぎるほど揃っていた。
でも、まだダメだ。
パズルのピースが、あと2つ足りない。
女の顔写真。そして、女が経営しているバーの場所。
この2つを押さえるまでは、焦ってはいけない。
そう自分に言い聞かせながら、わたしは毎日、何事もないように夫の隣で生活を続けた。
この頃、夫がよく口にするようになった人物がいた。
「社長」だ。
70代の男性で、建設会社を経営しながら、1日に10数億円を動かす投資家だという。
「本当にお世話になっている。すごい人なんだ」
夫はその「社長」に心酔していた。
思えば、夫が行列に並んでまで手土産を用意していた相手は、この「社長」と女だった。
「お世話になっている人に」と言っていたあの日。
もともと感謝の言葉も贈り物もしない人だったのに、と思っていた。
夫のノートには、2つの住所が書かれていた。
ひとつは女のマンション。
もうひとつは、建設会社の住所だった。
カーナビの履歴を確認すると、夫が「出張」と偽って女と映画を見に行った日、その建設会社に立ち寄っていた。
女と「社長」は、無関係ではない。
そこまでは確かだった。
でも、2人の関係性がわからない。
親子なのか。女のバーの太い客なのか。
謎の人物が、霧の向こうにいるように感じた。
不気味だった。
そしてわたしの頭を、もうひとつの疑念がよぎった。
夫がこの頃始めた、怪しい株式投資のこと。
セミナー代として、夫は約50万円を女の口座に振り込んでいた。
女が、間に入っていることは間違いない。
「社長」も、その投資話に絡んでいるのではないか。
小金を持ったサラリーマンが、女に骨抜きにされる。
いわゆる、ハニートラップ。
夫は、騙されているのではないか。
その「社長」と女に、まるごと利用されているのではないか。
疑念は、どんどん膨らんでいった。
夫自身も騙されているのではないか―。
そんな気持ちが芽生え始めた1週間だった。
次回:「GPSが夫にバレた日」

