夫を操る謎の「社長」とは何者か。不倫の裏に、もうひとつの疑惑が浮かびあがった

2_地獄の3か月


証拠集めを始めて、1週間が経とうとしていた。

驚いたのは、そのあっけなさだった。

探すまでもなく、次々と見つかる。


女の情報が書かれたノートは、リュックの中にそのまま入っていた。

クルーズ旅行のパンフレットは、リビングのテーブルに置いてある。

クローゼットを開ければ、精力剤が堂々と鎮座していた。


ほんの数週間前、わたしが「ディア・ファミリーは面白かったですか」とLINEで問い詰めたとき、夫は頑として不倫を認めなかった。

「家族を捨てるつもりはありません」

それが夫の答えだった。


不倫を否定するなら、証拠は隠すはずだ。

それが普通の感覚だと思う。

なのに、なぜこんなにも無防備なのか。


チャネリングの先生へ相談した内容のメモまで見つかったとき、わたしは思わず笑ってしまった。

笑うしかなかった、と言ったほうが正確かもしれない。


夫の頭の中は、いったいどうなっているのだろう。

まるで「お花畑」だ。


今すぐ問い詰めたい。

そう思う気持ちはあった。

証拠はもう十分すぎるほど揃っていた。

でも、まだダメだ。

パズルのピースが、あと2つ足りない。

女の顔写真。そして、女が経営しているバーの場所。

この2つを押さえるまでは、焦ってはいけない。


そう自分に言い聞かせながら、わたしは毎日、何事もないように夫の隣で生活を続けた。



この頃、夫がよく口にするようになった人物がいた。

「社長」だ。

70代の男性で、建設会社を経営しながら、1日に10数億円を動かす投資家だという。

「本当にお世話になっている。すごい人なんだ」

夫はその「社長」に心酔していた。


思えば、夫が行列に並んでまで手土産を用意していた相手は、この「社長」と女だった。

「お世話になっている人に」と言っていたあの日。

もともと感謝の言葉も贈り物もしない人だったのに、と思っていた。


夫のノートには、2つの住所が書かれていた。

ひとつは女のマンション。

もうひとつは、建設会社の住所だった。


カーナビの履歴を確認すると、夫が「出張」と偽って女と映画を見に行った日、その建設会社に立ち寄っていた。

女と「社長」は、無関係ではない。

そこまでは確かだった。


でも、2人の関係性がわからない。

親子なのか。女のバーの太い客なのか。


謎の人物が、霧の向こうにいるように感じた。

不気味だった。


そしてわたしの頭を、もうひとつの疑念がよぎった。

夫がこの頃始めた、怪しい株式投資のこと。


セミナー代として、夫は約50万円を女の口座に振り込んでいた。

女が、間に入っていることは間違いない。

「社長」も、その投資話に絡んでいるのではないか。


小金を持ったサラリーマンが、女に骨抜きにされる。

いわゆる、ハニートラップ。


夫は、騙されているのではないか。

その「社長」と女に、まるごと利用されているのではないか。


疑念は、どんどん膨らんでいった。

夫自身も騙されているのではないか―。

そんな気持ちが芽生え始めた1週間だった。


次回:「GPSが夫にバレた日