ー2枚のチケットが示していた真実ー
私は、はやる気持ちを抑えきれなかった。
夫の通勤カバンに、GPSを仕込むことにした。
夫のカバンはリュックサックだった。
ポケットがいくつもついている。
その中の、底に近いサイド。
隠しポケットのような小さなジッパー付きの場所を見つけた。
ここなら、バレないのではないか。
何度も手を止めながら、
震える指でGPSを押し込んだ。
GPSは、移動を開始するとスマートフォンに通知が来る仕組みだった。
通知が来るたびに、私は何度も現在地を確認した。
何度も、何度も。
正直、仕事どころではなかった。
けれど画面の中の夫は、
ただ会社と家を往復しているだけだった。
——何も起きていないように見えた。
その週の半ば。
他の証拠と一緒に見つけた、
「吉本新喜劇」のチケット2枚。
その公演日が迫っていた。
夫は、私を誘ってきた。
前の週に不倫を問い詰められ、
さすがに、女と行くわけにはいかないと判断したのだろう。
「リセールで手に入れたんだ」
あまりにも分かりやすい嘘だった。
私は、1秒だけ考えてから、
「行きたい」と答えた。
当日、私は休暇を取っていた。
夫は午前中仕事に行き、
現地集合することになった。
もちろん、その日もGPSは仕込んである。
私は待ち合わせの時間より30分も早く到着していた。
チケットは夫が持っている。
1人では入場できない。
待つしかなかった。
スマートフォンの画面を見つめながら、
GPSの動きを追っていた。
順調に、こちらに向かってきている。
——はずだった。
途中で、動きがおかしくなった。
電車に乗っているはずのルートから外れている。
なぜ?
まさか。
女と会っているのか。
本来、その隣にいるはずだった女。
吉本新喜劇に行くはずだった相手。
行けなくなって、揉めているのか。
それを、なだめているのか。
想像だけが、膨らんでいった。
遅い。
とにかく、遅い。
約束の時間を過ぎても、夫は現れなかった。
LINEが届く。
「開演時間ギリギリになりそうです。」
そんなわけがない。
とっくに間に合う時間に出ているはずだった。
どこで、何をしているのか。
苛立ちだけが、積もっていった。
結局、夫は開演時間ギリギリに走って現れた。
私は、1時間待たされていた。
入場の列に並ぶ。
本来なら、ここで私にチケットを渡すはずだ。
でも、夫はそれができない。
「リセール」という嘘があるから。
チケットを見せるわけにはいかない。
夫は、私に背を向けたまま、
スタッフにチケットを差し出していた。
私は、気づかないふりをして入場した。
席に着くと、夫はすぐにトイレに立った。
リュックが、そこに残されていた。
私は、静かにGPSを回収した。
劇場は、満員だった。
会社からも近いこの場所で、
白昼堂々、不倫相手と来るつもりだったのか。
どれだけ現実が見えていないのか。
そう思うと、腹が立った。
炎天下で1時間待たされたことも、
余計に苛立ちを強くした。
帰り際、私は言ってしまった。
「こんなところに女と来るつもりだったの?」
「会社の人もたくさんいると思うよ。そういうの、やめた方がいいよ」
夫は、
「何言ってるんだ」
そう返すのが、精一杯だった。
私はまだこの時知る由もなかった。
GPSが見つかってしまうことを・・・。


