通帳にない50万円|夫の嘘が崩れた瞬間

2_地獄の3か月

私は家計の通帳の明細を、指でなぞるように一つ一つ追った。
見落としがないように。

そこで目に止まった名前。
見覚えがある。

チャネリングの先生。

毎月10,000円。

規則正しく並ぶその金額は、偶然ではあり得ない。
単発でもなければ、気まぐれでもない。

——継続している。

遠隔シャワー。
対面ではなく、離れた場所から“力”を送るという、あれだ。

夫はこれを、毎月受けているのか。

思い起こせば数か月前、夫は言った。
「俺が今生きていられるのは〇〇先生のおかげだ」と。

仕事で悩み、体調も崩していた夫に、
「このままでは命がもたない」と女が伝え、
勧められるまま30,000円の遠隔シャワーを受けていた。

個別なら30,000円。
大勢と一緒なら10,000円。

そういう仕組みだ。

仕事のこと。
投資のこと。
女のこと。
家族のこと。

びっしりとメモを取り、先生に相談していた。

夫は、自分の人生の舵を他人に預けていた。

しかもその代金を、家計から払っている。

——ふざけるな。

私はページをめくる手を止めた。
怒りというより、冷たい確信が胸の奥に沈んでいく。

そして、もう一つの違和感が浮かび上がる。

あの振込票。

夫のリュックから見つけた、あの紙。
女の口座に、50万円近く振り込んでいた記録。
投資セミナーの参加費用だ。

なのに——

家計の口座にも、
夫の小遣い口座にも、
その痕跡がどこにもない。

ならば答えは一つしかない。

隠し口座。

私は集めた証拠の中から振込票のコピーを取り出し、
夫から受け取ったキャッシュカードと見比べた。

口座番号の下三桁は伏せられている。
だが、上四桁——3082。

一致した。

やっぱりだ。

この口座から、振り込んでいる。

「手を付けていない」

あの言葉が、頭の中で反響する。

よくそんな嘘がつけるものだ。

だから通帳を渡さなかった。
だから見せなかった。

全部、つながった。

予想はしていた。
覚悟もしていたつもりだった。

それでも、腹の奥が熱くなる。

残高529万。

いったいいくら消えているのか。
女に、いくら流れているのか。
スピリチュアルに、いくら流れているのか。
怪しい株式投資に、いくら流れているのか。

通帳さえあれば、全部わかる。

でも夫は、それ自体が存在しないと言い張る。

つまり私は、
決定的な数字に、あと一歩届かない場所に立たされている。

この距離が、何よりも腹立たしかった。