私は家計の通帳の明細を、指でなぞるように一つ一つ追った。
見落としがないように。
そこで目に止まった名前。
見覚えがある。
チャネリングの先生。
毎月10,000円。
規則正しく並ぶその金額は、偶然ではあり得ない。
単発でもなければ、気まぐれでもない。
——継続している。
遠隔シャワー。
対面ではなく、離れた場所から“力”を送るという、あれだ。
夫はこれを、毎月受けているのか。
思い起こせば数か月前、夫は言った。
「俺が今生きていられるのは〇〇先生のおかげだ」と。
仕事で悩み、体調も崩していた夫に、
「このままでは命がもたない」と女が伝え、
勧められるまま30,000円の遠隔シャワーを受けていた。
個別なら30,000円。
大勢と一緒なら10,000円。
そういう仕組みだ。
仕事のこと。
投資のこと。
女のこと。
家族のこと。
びっしりとメモを取り、先生に相談していた。
夫は、自分の人生の舵を他人に預けていた。
しかもその代金を、家計から払っている。
——ふざけるな。
私はページをめくる手を止めた。
怒りというより、冷たい確信が胸の奥に沈んでいく。
そして、もう一つの違和感が浮かび上がる。
あの振込票。
夫のリュックから見つけた、あの紙。
女の口座に、50万円近く振り込んでいた記録。
投資セミナーの参加費用だ。
なのに——
家計の口座にも、
夫の小遣い口座にも、
その痕跡がどこにもない。
ならば答えは一つしかない。
隠し口座。
私は集めた証拠の中から振込票のコピーを取り出し、
夫から受け取ったキャッシュカードと見比べた。
口座番号の下三桁は伏せられている。
だが、上四桁——3082。
一致した。
やっぱりだ。
この口座から、振り込んでいる。
「手を付けていない」
あの言葉が、頭の中で反響する。
よくそんな嘘がつけるものだ。
だから通帳を渡さなかった。
だから見せなかった。
全部、つながった。
予想はしていた。
覚悟もしていたつもりだった。
それでも、腹の奥が熱くなる。
残高529万。
いったいいくら消えているのか。
女に、いくら流れているのか。
スピリチュアルに、いくら流れているのか。
怪しい株式投資に、いくら流れているのか。
通帳さえあれば、全部わかる。
でも夫は、それ自体が存在しないと言い張る。
つまり私は、
決定的な数字に、あと一歩届かない場所に立たされている。
この距離が、何よりも腹立たしかった。


