わたしが考えていたのは、子どもたちにどう伝えるか、だった。
末っ子は大学受験を控えていた。
進路に影響が出るようなことは、絶対に避けなければならなかった。
こんな大切な時期に、離婚だなんて。
本当に最悪だと思った。
わたしは夫に、どうしても守ってほしいことがあった。
- 受験勉強に影響が出ないよう、協議は水面下で行うこと
- 私と子どもたちが、これまでの生活を維持できるようにすること
- 子どもたちの進路に、不利益が生じないようにすること
夫も了承していた。
はずだった。
夫が出て行った翌日。
子どもたちそれぞれのスマホに、夫からLINEが届いた。
「ママはパパが浮気したと思っている。してないのに。映画には行ったが、そんな関係では無いし。話し合いして仲直りした後すぐに、鞄にGPSを入れられた。怖すぎる。もう一緒にいるのは無理。ママもパパといるとストレスが溜まる。子どもたちにも矛先が向く。お互いの幸せのために、離婚した方がよい。」
原文のまま、転記する。
この期に及んで、子どもたちにも嘘をついていた。
あくまで自分は、「冤罪を着せられた被害者」という立場らしい。
愕然とした。
さらにわたしを震わせたのは、その夜のことだ。
真ん中の子どもから連絡が来た。
夫から電話があったという。その内容を聞いて、わたしは絶句した。
「ママには鬼の霊が180匹付いていて、ママを介してパパにもカエルと蛇の霊が20匹ついてしまった。除霊の先生を社長の自宅に呼んで、ママの分まで除霊をしてやった。パパは今、その除霊の先生にラインで相談しながら行動してる。家を出たのも、子どもたちに話したのも、先生の指示だから。」
これを大真面目に、わが子に語ったのだ。
鬼の霊が180匹。
カエルと蛇の霊が20匹。
除霊の先生。
背筋が凍った。
夫は完全に洗脳されている。
約束を破って子どもたちに離婚の話を伝えたことも、家を出たことも、「先生の指示だから」。
自分の意志ではない、ということにしたいのだろうか。
だいぶヤバい段階だ、と思った。
幸いだったのは、子どもたちが逐一わたしに教えてくれたことだ。
どちらが嘘をついているか。
どちらがヤバい状態なのか。
言わずとも、わかってくれていた。
わたしは、1人ずつと向き合って話をした。
嘘はつかない。
きちんと自分の口から伝えなければ、と思った。
まずは末っ子から。
「パパ、出て行ったよ。もう帰ってこないって。LINEが来てたでしょ。」
すると末っ子は、少し間を置いて言った。
「パパ、浮気してるよね??」
「なんでそう思うの?」
「だって、あまりにも家にいなさ過ぎたじゃん。平日だけじゃなくて、土日もずっといなかったじゃん。絶対に女いると思ってたよ。気づかないほうがおかしいよ。」
わたしは正直に話した。
「ママも最近気づいて、問い詰めたんだけど、パパが認めなかったから、GPSを仕掛けたらバレて、怒って出て行ったんだよ。」
すると末っ子は笑いながら言った。
「鞄に仕掛けたらバレるでしょ!普通は、車に仕掛けるでしょ~。」
まるで友達同士のような会話だった。
お互いに努めて、明るく、軽く。
でも本当は、父親がそんなことになって、傷つかない子どもはいないはずだ。
末っ子は3人の中で一番パパっ子だった。
一番夫に可愛がられていた。
その子どもを置いて、夫は何の迷いもなく出て行った。
「パパとママはこれから話し合いをするけど、あなたの大学のことも留学のことも、何も心配しなくていいから。パパもあなたのことは大切にしてくれると思うから。」
そう伝えた。
上の子どもたちにも、なるべく簡潔に、起きた事実を話した。
驚いたことに、子どもたちはみんな、夫の浮気を疑っていたのだ。
「パパ、筋トレしてダイエットして、急にオシャレになったし、最近なんか浮かれてたよね。」
「ジム帰りに車の中でよく電話してたから、そうだろうと思ってた。」
わたしはその事実すら知らなかった。
子どもたちは、ちゃんと見ていた。
バレていないと思っていたのは、夫だけだったのだ。
一番上の子どもはこう言った。
「仕事が激務だったし、辛かったんじゃないかな。スピリチュアルにはまるのも、仕方なかったんじゃないの?」
その言葉に、わたしは少し胸が痛くなった。
こんなことになっても、父親を慮ることができる子に育ってくれたのだ。
夫がスピリチュアルに傾倒していることは、子どもたちも以前から気にしていた。
遠隔シャワーやパワーストーンの話が出るたびに、「マジで、そんなのにお金払うなんて、ヤバくない?」と心配していた。
そこにさらに「除霊の先生」が登場した。
わたしも子どもたちも、不安にさらされていた。
本当に、おかしくなってしまった。
わたしたちはもう、「普通の家族」には戻れないところまで来ていた。
次回:「地獄の3か月」本格始動。

