夫が出て行った日|その直後、スマホが震えた

2_地獄の3か月

夫が出て行った日。

どんな会話をしたのか、どんな様子だったのか、ほとんど記憶がない。

頭が靄の中にあるような感覚だった。

ただ覚えているのは、三つのことだけ。

離婚することは、確定だった。

財産分与などこれからのことは、週末に話し合うということ。

そして夫は、懇意にしている例の建設会社の「社長」が保有する賃貸物件に、格安で住まわせてもらうということ。

随分と、話が早い。

女の住むマンションに行くのだろうと思っていた。

さすがにそれはわたしには言えないから、「賃貸物件に入居する」と言っているのか。
あるいは、すぐには転がり込めない事情があるのか。

いずれにせよ、「社長」と女は密接に絡んでいる。

桁外れの金を動かす人物らしいその「社長」のもとに身を寄せるということは、もう簡単には抜け出せないだろう。怪しい投資話も深みにはまっていくのだろう。

「社長」が善意で住むところまで格安で提供するとは、到底思えなかった。

夫から引き出せる金がなくなったとき、あの「社長」はどう動くのだろう。

それはそれで、自業自得だ。

わたしは、わたし自身と子どもたちを守らないといけない。

夫と、そのバックにいる「社長」と女と、一日も早く手を切らないといけない。

そのことだけを、強く思っていた。

夫は前日の憤怒の様子とは打って変わって、だいぶ落ち着きを取り戻していた。

それでも表情は険しかった。

もうこの人が、わたしに笑顔を見せることは二度とないのだろう。

「週末、話し合いに来るから」

そう言い残して、夫は出て行った。

わたしは見送ることもなく、

「はい」

とだけ返事をした。

ブオーンという車が発進する音がして、そのうち聞こえなくなった。

実にあっけなかった。

自分の身に起きていることが、現実の出来事とは思えなかった。

数秒後、スマートフォンに通知が届いた。

GPSからのメッセージだった。

「移動を開始しました」