「学資保険まで半分よこせ」|熟年離婚・財産分与で揉めた話②

2_地獄の3か月

「来週までに、財産分与のエクセル、あなたの分を埋めといてくれ」

そう言い残して、夫は帰っていった。

——また来週、来るのか。

まだ1回目だというのに、わたしは精も根も尽き果てていた。

ぼんやりと、さっきまでのやり取りを思い返す。

話は、わたしが思い描いていたようには、まったく進まなかった。

財産分与が、原則「2分の1」だということは、わたしも分かっていた。

でも、その割合は、ふたりが合意すれば、自由に変えられるものでもある。

だからわたしは、こう求めた。

「あなたは有責なんだから、そこは譲歩してよ。こちらには子どももだっているのだから、半分も持っていくなんて、おかしいでしょう」

けれど夫は、あくまで「権利は2分の1だ」と言って、譲らなかった。

挙句の果てに、こう言い放った。

「不倫なんかしてませ〜ん。何も悪いことはしてませ〜ん。あくまで性格の不一致で〜す」

バカにしきった、その口調。

わたしもブチ切れて、お互いに声を荒げて罵り合った。

——性格の不一致。

たしかに、それも一因ではある。

でも、23年間、家族としてやってきたのだ。

離婚の最大の原因が、あの映画の半券から発覚した夫の不貞であることは、間違いない。

それなのに、夫は決して不貞を認めない。

なぜか。

夫は、チャネリングの先生に「(不貞は)バレないほうがいい」と助言されていたからだ。

相談メモに、夫の字で、きっちりそう書いてあった。

だから夫は、かたくなに認めないのだ。

証拠を、今は出せない

思わず、そのメモを——証拠を並べて、追及してやろうかと思った。

でも、何とか思いとどまった。

大事な証拠を、今、出してしまったら。

夫は「どうやってそれを手に入れた」と、逆にわたしを責め立ててくるだろう。

「カバンを勝手に見ただろう、プライバシーの侵害だ」と、論点をすり替えてくるに違いない。

証拠は、最後まで切り札として持ち続けなければならない。

そう、自分に言い聞かせた。

お金に執着する夫

それにしても——。

夫の豹変ぶりに、わたしは愕然としていた。

夫は今まで、お金に細かいことを言う人ではなかった。

家計の管理も、すべてわたしに任せてくれていた。

子どもたちへの愛情だってある。子どもを不幸にしたいなんて、思っていないはずだ。

それなのに。

夫は自分の権利ばかりを主張し、わたしと子どもたちから、家とお金を奪おうとしてきた。

しかも——。

子どもが生まれたときから、夫婦それぞれが契約者になって払い続けてきた「学資保険」。

その満期金まで、「共有財産だから2分の1だ」と言い出したのだ。

さすがに、我慢ならなかった。

「いや、違うでしょう。学資保険は、子どもたちが大学や留学に行くためのお金。子どもたちのものだよ。2分の1にするなんて、絶対におかしい!! それはこっちに渡してよ!!」

声を荒げて、わたしは訴えた。

子どもを捨てて出て行った夫が、子どものためのお金まで、なぜ半分持っていくのか

到底、納得できなかった。

——目の前にいるこの人は、本当にわたしの夫なのか。

23年間、苦労を共にしてきた伴侶なのか。

なぜ、こんなにもお金に執着するのか。

……これが、洗脳というものなのか。

あの女や、”社長”が、裏で糸を引いているのか。

考えはいつも、そこに行き着くのだった。

渡されたエクセルシートを前に

夫が自作したエクセルシートを眺めて、わたしは暗澹たる気持ちになった。

わたしの退職金——いったい、いくらもらえるのか。

わたしの貯金は、いくらあったっけ。

来週までに、これを全部埋めるの……正直、厳しい。

いや、それより。

そもそも、夫が入力した項目や数字は、正しく、漏れなく書かれているのか。

その検証から、始めないといけない。

きっと、書かれていない財産もあるはずだ。

夫には、もう不信感しかなかった。

「有責なんだから、夫が譲って当然」。

そう信じて、わたしは戦っていた。

でも——このあと弁護士に相談して、思いもよらない現実を知ることになる。

▶財産分与の法律的な現実は、こちらにまとめました

「熟年離婚の財産分与、有責でも2分の1?学資保険・退職金・生命保険はどうなる?」

次回

エクセルシートの検証から始まった、財産分与の闘い。

夫が「書かなかった財産」に、わたしはやがて気づくことになる。

▶前回はこちら
「住みたいなら家の半額を払え」|熟年離婚・財産分与で揉めた話①